愛国つながりでヨタ(ヲタ)話
ご覧のように閑古鳥状態であるが,『国が燃える』関連で初トラックバックをいただいたことを喜びとして,「愛国」というお題でリレー漫談……じゃなく,関連記事を起こそうと思い立った。
とはいえ,このブログは当初の構想とは裏腹に少々硬い内容ばかりで,読者が気安く来にくいというダジャレのような難点があるのではと密かに思っている。ので今回は「本格的なヨタ話」である。あるいは「ヲタ話」か。それもお仏蘭西風味ときているのだ。
こちらで出会ったノルマリヤン(超エリート校エコール・ノルマル・シュペリュールの学生のこと)にして日本マニア(というと本人はどう思うか知らないが,ZONE(あの女の子4人組ね)マニアということは自認しているようである)に教わり,はじめて知ったもの,それは何かと尋ねたら……
『新剣銃士 フランス・ファイブ』というビデオ/DVD作品である。
こ,これは……。フランスのOTAKUたちが自主製作した,レアな一品である。いわゆるゴレンジャーに淵源をたどる「戦隊もの」の純フランス版であるが,自主製作とはいっても,2004年リリースの最新版(エピソード4)はプロの仕事かと思えるほどその技術は高い。変身後はスタントマンが殺陣を行っており,特撮,コンピューターによる効果,オリジナルの音楽もとても気合いが入っていることが伺える。しかも主題歌は日本の戦隊ものの歌手である串田アキラ氏が歌っているというからさあたいへん(そのへんもまったく知らんかった)。エピソード4では日本語の字幕もついているし,サイトも日本語版がある。監督の奥さんが日本人なので,そういう芸当ができるのであろう。ていうか日本人のファン層にも支えられているらしい。恐るべし。
▼その設定がまた脱力するほど微笑ましい。リーダーは「レッド・フロマージュ」。フロマージュはチーズのこと。その他「ブラック・ボジョレー」「ブルー・アコーデオン」「イエロー・バゲット」「ピンク・アラモード」からフランス・ファイブは構成されている。謎のキャラクターや敵もいろいろいるがそれは省略。とにかくフランス・ファイブは,宇宙からの侵略者の手から地球を守っている。そのさい鍵になるのはエッフェル塔の存在である。エッフェル塔こそは,宇宙人が地球で活動できる時間を制限する魔除けの塔なのであった。エッフェル,偉大なり。それゆえ宇宙人たちはあの手この手でエッフェル塔を破壊しようと試みるのだった。
何かこう,うっすらとおもろいのである。とりあえずこの人らはあのエッフェル塔を望む観光客でいっぱいのトロカデロで,シャイヨー宮でロケをしているというその事実がおもろい。
これを見るに,フランスはやはり映画の国なのだと実感する。というか芸術の国。フランスが特に他国に比べて優れているのは,芸術,哲学,そして農業だと思う。前二者については特に説明なくうなずけるだろう。農業は意外だろうか。農業が国力であるという発想。大学時代に「経済学史」という科目を履修したあなたはお気づきのように,フランソワ・ケネーらの「重農主義」がフランス人の基本的発想である。と思うが。フランス・ファイブのキャラクターもだいたいのところ哲学以外,つまり芸術関係(アコーデオン,アラモード)と農業関係(フロマージュ,ボジョレー,バゲット)から構成されている。フランス人自身から見てフランスの売りはそういうところにあるのだろう。
一方でこの自主製作ビデオは,何というか,真面目すぎるところがある。元ネタ(後述)は本来笑いを誘うことを目的としたものだったが(違う?),フランス・ファイブの方は,エピソードを重ねるにつれ製作者本人が製作それ自体の楽しみを見つけてしまったように感じる。確かに日本の戦隊ものの本質およびディテールを完璧にパスティーシュ(構造の模倣)している。しかしパロディ(笑える冗談)ではないのだ。言い換えれば,破目をはずしていないのだ。うっすらとおもろいのだが,「爆笑」にはならない。むしろ「感心」なのである。だから思うに,この映像は本編もいいけれどむしろメイキングが楽しいようにできているのである。
▼これに対して,これの元ネタである『愛国戦隊大日本』のほうは明らかに製作思想が違っていた(比較記事)。1982年製作・翌年発表のこいつはとてもブラックなユーモアに満ちている。いまやオタク学で知られる岡田斗司夫氏とエヴァンゲリオンの庵野秀明氏が制作側に入っている。ううむ。
だいいち設定がヤバすぎる。冷戦期とはいえ,旧ソ連を想起させるデスマルクス書記長率いる悪の組織「レッドベアー」(悪の城デスクレムリンを根城とする)が日本に攻めてくる。日本を守れ,大日本!というような内容なのである。
これはネットであらすじを読むだけで爆笑できる。
「アイ・カミカゼ」「アイ・ハラキリ」「アイ・スキヤキ」「アイ・ゲイシャ」「アイ・テンプラ」である。フランス・ファイブのような国を愛する心があまり感じられない。本気でスキヤキとかを日本の誇りと考えているのか? もちろんそうではなくて,これは外国人から見た日本文化のステレオタイプを笑う設定だろう。しかも最終話までに全員が名誉の戦死(自刃を含む)を遂げるというありえない設定。
もしも 日本が 弱ければ
ロシアは たちまち 攻めてくる
家は焼け 畑は コルホーズ
君はシベリア 送りだろう
というありえない主題歌の歌詞(なおこの主題歌は「大日本」のさらに元ネタである「太陽戦隊サンバルカン」の替え歌らしい)。
エピソードとしては第3話「びっくり! 君の教科書も真っ赤っか」のみが撮影されたという。デスマルクス書記長の命を受け,ジャボチンスキー将軍は「洗脳5カ年計画」ですべての教科書をすりかえようとする。異変に気づいたリーダーは「こ,これは……。マルクス,資本論,共産党宣言,みんなアカじゃないか!」とか言う。お前もレッドじゃないか。
迫り来る行動隊長ツングースカ・キラーと怪人ミンスク仮面。「おひとつどーぞ」と敵ザコ(ハラショマン)に酒を勧めるアイ・ゲイシャ(ピンクにお色気攻撃はつきものである。フランス・ファイブでもフレンチカンカン・キックが炸裂していたが)。いい気分で酔っぱらう敵。程なくして高額の請求書が! 「ひぇ~,資本主義は怖い~」と敵は逃げていく。ありえない。
微妙に『南総里見八犬伝』を引用するなど,ある意味見る者に教養を要求する。「右も左も等しく笑い飛ばしたパロディ的要素の強い怪作」。まさにそのとおりだろう。
それではどうぞ。
▼そこで提案。続編を作ってはどうだろうか。デスペンタゴンを本拠とする悪の組織「デス新十字軍軍団」の首領・デスブッシュ総統の命を受け,デスチェイニー将軍は全世界の教科書をすり替えようとする。「こ,これは……。みんな進化論が創造論にすり替わっている! キリスト教原理主義じゃないか!」。怪人オイルダラー仮面とかテキサスブロンコ仮面とかハリバートン・キラーとかを次々と送り込んでくるデスラムズフェルト行動隊長。デスウォルフォウィッツ参謀のめぐらす罠。そういう悪に大日本が敢然と立ち向かう。「仁!」「義!」「信!」「智!」「忠!」天誅ボール炸裂! がんばれ大日本! 地球を救え!
地球だったら別に日本でなくてもいいのかな。アイディアお待ちしてます。
追記 le 10 juin 2005
Exciteニュース
パリノルールblog
でも紹介されてますな。でもこっちのほうがだいぶ早かったもんね(鼻の穴拡大)。
ちなみに僕はエピソード2~4まで見ました。そりゃあ4がすぐれてましたよ。知人によると「エピソード1ももってるはずだけど,どこにしまったかわからない」とのこと。
あと,僕は元ネタ(愛国戦隊~)の趣旨を間違えてるかもしれません。
ディスカッション
コメント一覧
閑古鳥とおっしゃてるので、ちゃんと届いていますと、鎌倉から応えたいと思いました。
白いカラスのさえずり程度かもしれませんが。
いつか、歓呼鳥の合唱が起こらんことをお祈りしています。「ヨタカがミネルヴァのフクロウよりも高くとぶ一片の可能性に賭ける程度には、楽観主義者でありたい」と思うと同時に、
ミネルヴァには、知恵も司るなら、もうちょっと戦の方はご遠慮願いたいものです。
反応が遅くてすみません。Tatarさん,鎌倉からの暖かいコメントありがとうございます。
武器輸出三原則もついになし崩しになっちゃいましたね。これでは日本は死の商人の国だということをカミングアウトしたようなものです。国益国益という人が何だか多い気がしますが,国益っていうのも所詮は私益ですからねぇ。よその国で知らん人間がどれだけ死のうが,知ったこっちゃないということでしょうか。
まったくひどい話ですよ。
ところでTatarというのは「韃靼」からでしょうか?
Tatarと言うのは、もうそのまま、私が「Tatar」と言うことです。Tatarの血を引くものです。島尾敏雄がポーランドへ旅行した際に、みずからを「タタール人」と呼称したエッセイがあるのですが、もちろんそれは、比喩としてです。だったら、私は日本のいる「Tatar」の末裔として、何かをやってみることもいいじゃないかと。私の親族も国際結婚が多いもので、親族だな、と思っている人たちの中で、トルコ人、タタール人、ポーランド人、アメリカ人がおります。(土曜日に美しいウクライナ人と知り合いになり、また何かが変わっていく・・・)私にとっては、国際政治も余りに具体的なものであって、常に深刻です。「愛国戦隊大日本」、これは笑えるものであると、認識はできる。また、批判したであろう人々の言説もだいたい想像がつく。しかし、シベリアもしくは満州で地獄を見た親族をつぶさに見ていると、大きな「違和」がうごめくのが分かる。話がずれましたが、がんばってください(笑)。
コメントありがとうございます。Tatarの由来をお聞きしたのは,私は実は院生のときに研究室部内報(連絡掲示板みたいなもの)として「The Tatar Tribune」というのをやっていたからです。で別にTatar関係者がいるわけではないのになぜこの名前かなのかと言いますと。
師匠の名前が「間宮」だったのです。もうお分かりですね。「タタール海峡」は日本名で「間宮海峡」ですから。その連想というかダジャレでした。
閑話休題。たしかにそうした親族をお持ちの場合,「シベリア送り」は笑えない部分かもしれませんね。それでもTatarさんのようにそこでキレてしまわずに,ユーモアはユーモアとして受け止める広い心をもっていただけるとありがたいです。フランス人もブラックユーモアは好きで,大丈夫かと思うようなことを割と平気で言っています。とにかく「言うだけなら許す」という感じです。日本は「言うのも許さん」という空気があるので気を遣います。
また「美しいウクライナ人」の方とのその後をレポートいただければなおうれしいです(殴)。スラヴ系の美しい女性って本当に美しいでしょうからね(しかし文面からは女性とは限らないのか)。ついでに(とは何だ)例の大統領選についての意見も聞ければ最高です(政治の話は微妙なので無理しないでくださいね)。
ブラックユーモア、私も好きですし、あの作品から出てくる批判なんて、どうせ・・・と思います。最近、日本は(と一般化するのも問題ありますが)冗談が通じなくなっているのではと思うことが多々ありますね。
なんにせよ、感情的吹き上がりがちょっと怖いです。そんなに怒ることか?とか、そんなに責めることか?と個人的には思うことにメディアも受けても冷静な対応がない、すごい違和感を
感じる日々でございます。ウクライナ人、美しい女性でございます。近い内に帰国するのですが、それまで会う機会があるので、ちょっと聞いてみます。大統領選にまつわり、元大統領の顔写真は、何と言えば良いのか、言葉に困ります。