パリの年末年始

2018年8月21日

いくらなんでもそろそろフランスのことについて何か書かないと,本当にパリにいるのかどうか疑われても仕方がないので,文科省向けに書いておく。ウソ。

Marché de Noëlハイ。パリの12月というのは,6日に聖ニコラス(サンタクロースのモデル)の祝日があるので,もう上旬からクリスマス気分である。こちらのツリーは日本のように作り物のやつがデフォルトではなく,本物のもみの木 sapin がデフォルトである。街の花屋の店先にずらっと家庭用のものがならび,親子連れがそれを買っていくのだ。

われわれは名古屋経済大学のレギュラシオン派経済学者であるH田さんご夫妻と途中で合流しながらストラスブールのクリスマス・マーケット Marché de Noël を見てきた。たいへん面白いものが売っているわけではないが,とても風情がある。ムチャクチャ寒かったが。ちなみにツリーをクリスマスに飾る風習はアルザス地方の発祥らしい。


ノエルのバカンスは12月中旬から始まり,1月2日でおしまい。今年は2日が日曜日だったので,仕事は(大学も)きっちり3日からスタートである。「えーー」とか言いたくなる。新年というイベントは,フランス人にとって大きな意味を持っていないのだ。日本人にとっての年賀状は,ヨーロッパ人にとってのクリスマスカードだし。ただしテレビでは正月特番みたいなのはやっぱりあったが。驚くべきことに,フランスの漫才というのも存在する。たまたまつけたチャンネルで典型的な「夫婦どつき漫才」を見て,釘付けになってしまった。これにはいたく感動した。やっぱり人類って兄弟なんや……。

クリスマスが終わっても,ツリーは日本のようにすぐ撤去しない。しばらくは飾ったままである。が当然,新年あけてしばらくすると,ツリーがぼちぼちと撤去され始める。家庭で飾っていたツリーがよく道端に捨ててある(パリでは大きなものを捨てるには,道に出しておきさえすればよい)。もったいない,というか生きている木がかわいそう,という気持ちをわれわれ日本人は抑えきれない。それ以前にどうして大型ゴミの日がないのかが理解できない。日本なら,引越のときに大荷物を捨てようとして業者を呼ぶと足元を見られてボられるのに。

▼私個人はというと,12月は1度だけバレエ『眠れる森の美女』を見に行ったのを除けば特に何もなく,大学と大学院の授業に出るだけだったが,1月前半は新年会ラッシュでけっこう面白かった。

ラカン 哲学空間のエクソダス6日には,東大のHK之さん(『ラカン――哲学空間のエクソダス』著者)がたまたまパリを訪問されていたので,ドクトラのF田D輔さんの粋な計らいで,パリ8精神分析学科の日本人全員集合(といっても4人+奥さん1人)と相成った。リュクサンブール公園脇のカフェで会食。デジカメを持って行ったのに,なんということ,CFカードを忘れていて,証拠写真は撮れずじまいであった。皆さんごめんなさい。

セミネール5巻の翻訳がもうすぐ(夏ごろ?)出る話とか,こちらのラカニアンたちの動向とか,パリ7のほうが実はいいんじゃないかとか(爆),そういうよもやま話,もとい情報交換をひさびさに日本語で楽しんだ。とかく「正統」ラカン派は教条的・硬直的と揶揄されるが,そこの学生さんや若い人々はと言えば,なんのなんの,別流派にもちゃんと目配りしており,皆さんバランス取れた勉強をしていらっしゃると見た。この場でも,マッテ=ブランコのことを宣伝しておいたぜ。たぁ坊,ありがとよ。

同日,家に帰ると,妻がフランス語を習っているエコール・ノルマル・シュペリュールのガエルくん(固体物理専攻。超のつく日本びいきで現在日本語と空手を勉強中)がうちに来るという。来るなり,なぜか私が,ベルの不等式から始まって,ハイゼンベルクの不確定性原理の基本について彼のレクチャーを受けさせられる(テキストは仏語。トークはなぜか英語)。うーん,なぜ急にこんなことになったのだろうか。昔勉強したのをだんだん思い出してきたが,何しろ頭の中のテクニカルタームが全部日本語なので,頭の中が日英仏でどろどろになり,理解になかなか苦労する。あとでちょっと復習させて。

8日には,近所の日本人家庭にこのガエルくんも混ざって新年会。こちらのご主人は某酒造会社の派遣でこちらに来られているので,ワインのプロである。ワインも食事も,たいへん美味である。しばし歓談。至福のひとときを味わった。

13日には,コロンビア出身のインテリ兄弟(略してコロンビア兄弟)宅でのディナーが企画された。彼らは本当なら暖炉を使うらしいコロンビア料理を披露してくれた。これも美味,かつ楽しかった。肉はコカコーラでの味付けという。「びっくりした?」と聞かれたが,小林カツ代さんのレシピでもそんなのがあるのを知っていた。しかもあれってもともとネイティヴ・アメリカンの薬草とかからつくる薬だったわけで,あとは単に糖分だし,まあ理解できてしまうのだった。驚かなくてすまん。

この兄弟とは,去年6月のヴァレラ会議で知り合ったのだった。ムチャクチャいい兄ちゃんたちだ。つい先日までパリ8に留学されていた阪大のH間N樹さんが,ちょうど仕事で再びパリに立ち寄られているので,無理を言って予定をあけてもらい,合流する。「オートポイエーシス」「ルーマン」とかいう連想でつながりそうな人脈なので。しかし今回はそのような話は全くせず(あらら),次回は一緒に踊ろうぜというラリった約束をして終電間際に帰宅する。

▼12日からはSoldes(ソルド)が始まった。ソルドとは,バーゲンのことである。これはわれわれにとってはなじみのようで実は不思議な文化だ。日本ではありえないことに,有名ブランド物も3割引きくらいから始まる。そこから妙に市場原理に沿ってというか,売れ残ったものをどんどん安くしていって,しまいには7割引とかになる。フランス国内の地方からもパリのバーゲンに列車などで駆けつけるようだ。

周知のように日本人などもわざわざ飛行機で12時間かけてやってきて,ブランド物を買いあさって帰るようだ。最近は韓国が好況なので韓国人をよく見かける。しかも確かにこの時期,航空運賃はたいへん安い。飛行機チケットを格安で買い,大幅値引きのブランド物をしこたま買い込んで,ついでにおしゃれなパリを観光して帰れるなら,世の女性たちは満足できるに違いない。これも一つの祭りのような雰囲気がある。大散財という意味でポトラッチに似てなくもない。違うよね。違いました。

んー,こうしたことが読者諸賢にとって有益な情報になるかどうかはとても怪しいが,1月も末にアリバイ的に書いておく次第。次は冬のバカンスが待っているー。2月19日からだー。って何でこんなに休みが多いんだー。