モッシュかブッシュか――「ファルージャの虐殺」が始まった

2018年12月2日

さて,いつものように何の反響もないまま,先のクイズの解答を発表しよう。

ブッシュの言明「イラクには大量破壊兵器が存在する」という形式の言明は,論理学において「存在肯定命題」という。他方フセインの「イラクには大量破壊兵器は存在しない」というのは,「存在否定命題」である。

これらの命題は,「検証 verify」される(正しいことが確認される)か,「反証 falsify」される(間違っているということが確認される)かのいずれかである必要がある。論理学的には,検証可能な言明を行う者が「挙証責任 burden of proof」を負うべきだろう(ちなみに法学的な意味での挙証責任も,論理学的意味のそれを超越することはできないから,結局それに準ずることになるはずである)。

「存在肯定命題」を検証する方法は何だろうか。いま存在すると言っているものの実例を1つあげればよい。つまりこの場合,ブッシュはイラク国内に大量破壊兵器を1つ見つければよい(あたりまえだよね)。それができてはじめて,ブッシュが正しい言明をしたということが確認される。

「存在否定命題」はどうか。これは実は,検証することはできない。ないものが確かに「ない」ということを証拠つきで確認する方法は,どう考えてもないのである(ただし反証する方法はある。存在しないと言っているものの実例を1つあげればよい。フセインが大量破壊兵器を実際に1つもっていたら,フセインはウソを言ったことになる)。

したがって,挙証責任を負うべきは,フセインではなく,ブッシュである。Q.E.D.ときたもんだ。

ハイ小泉くんと川口くん,0点ね。

さて,表題のように米軍によるファルージャ掃討作戦が遺憾ながら始まってしまった。シバレイさんの「イラク全土に非常事態宣言」という記事にあるように,

ファルージャ攻撃の名目は、今回も「ザルカウィ」だが、一つの街を叩き潰す前に、ザルカウィがファルージャにいるという明確な証拠を、米軍も暫定政府も、提示すべきだ。

という指摘がまことに正鵠を射ていることに注目したい。

いや、多分、ファルージャにおける「ザルカウィ」はイラク戦争における「大量破壊兵器」みたいなものにすぎないのかもしれない。

そのとおりなのだ。ブッシュが言っているのは「ファルージャにザルカウィが存在する」であり,これは大量破壊兵器の件と同様,挙証責任を伴うべきである。

ね。そういうことも知っていないとたいへんだよ。大学教員として言うけれども,大学の勉強なんて役に立たんとか言わずに,自分で役に立てる気でやろうぜ。ボーッとしてると騙されるぞ。

ちなみに,もしザルカウィなる輩が存在しないとして,米軍が何のためにファルージャをつぶすのかいぶかる向きもあるが,おそらくはテロリストを再生産するため,つまりイラク国民を挑発することによってアメリカが「テロリスト」と呼ぶレジスタンスを増やし,「テロ戦争」を永続化することが目的であろう。論理学的に言って(また),すべての「テロに対する闘い」は八百長なのである。やればやるほどテロリスト化する人たちは増えるのだから。それとも母数(市民の絶対数)を減らすつもりか? そりゃさらにひどい話だ。

そう,本当は,占領軍に抵抗している人たちのことは,「テロリスト」ではなく「レジスタンス」と呼ばなければならない。そのへんもブッシュらの作戦である。その程度の言葉のごまかしにサクっと騙されている小泉は,本当にアホなのか(とするとかなりひどい),あるいはアホのふりをしているのか(こっちだとは思うが)。ぜひ知りたいところである。

時事,研究

Posted by 中野昌宏