自民党は憲法をどうしたいのか(1)

2019年7月30日

衆議院選挙が終わり、「改憲勢力」が3分の2を占めたことで、これから憲法論議が始まるはずです。憲法には所定の改正手続きがあり、いい改憲なら別に問題ないのですが、安倍政権下での改憲は国民の権利を縮小しかねないという声がずいぶん前からあがっています。

その決定的な根拠となるのは、2012年の自民党改憲草案です。自民党の本音、本当にやりたいことはここに書かれています。撤回もされていませんので、この本音は基本的に現在も生きていると考えるべきです。ただ、これは法律の条文ですから、一般に読み解くのは簡単ではないでしょう(この草案の条文については、私の「意見」ではない範囲で、私の授業内でも一部取り扱います。きちんと研究したい人のために、詳しい条文の分析はたとえばこちらが便利です)。

その点、同時期の自民党内「創生「日本」」というグループ(実質上の安倍派)の動画はそのエッセンスをわかりやすく伝えていると言えます。まずはこれをごらんください。たった2分半ほどです。つけてある字幕が毒々しいですが、そこは割り引いて……。

なお、上は小畑さんという方が編集されたものですが、オリジナルは公式のもの、こちらです。これも削除されておらず、現在も広く公開されているものです。創生「日本」の他の動画もYouTubeで多数見ることができます。こういった方向性が基本的に安倍さんを中心とするグループの考えであると思ってよいでしょう。

国民主権、基本的人権、平和主義、この3つをなくさないと、本当の自主憲法にはならない」と長勢甚遠・元法務大臣がはっきりと発言していますね。小・中学校で勉強する日本国憲法の3大原則を削除せよとは、かなり驚くべき発言ではないでしょうか。その理由たるや、「人権がどうだ、平和がどうだ、と言われると、怖じ気づくから」だそうです。彼らは国防軍や尖閣の軍事利用にも言及していますし、要は「怖じ気づかずに、お国のために戦え」ということでしょうね。

彼らにとっては、日本国憲法はGHQによる「押しつけ憲法」であり(事実とは異なります。また別の機会に)、それに基づく体制は「戦後レジーム」という悪い体制、ということになっているのです。

平和主義(9条)の問題ももちろん重大なのですが、まずそれ以前に国民主権と基本的人権をなくすとはどういうことなのか、ピンときますでしょうか。国民主権がなくなるということは、国家主権になるということですよね。いまと違って、国家が一方的に国民を統治する、というスタイルに変わるということです。

これはものすごく大きな変更。復古的な体制変革、反動革命です。「政策」レベルの問題ではありません。「政体」レベルの問題です。したがって、現在の自民党の立場を「保守」と見なすことには大いに問題があります。

具体的に考えてみると、この変革によって、個人にとって国家の命令は絶対、ということになります。「死ね」と言われれば死なないといけないし、「家屋敷を差し出せ」と言われれば差し出さないといけません。いま――近代以降――は私たちは「基本的人権」=人間として最低限の権利によってプロテクトされていて、国家権力と言えどもむちゃくちゃは言えない(言う権利がない)ことになっていますが、そこは担保されなくなるということです。国が私たちの家屋敷を取り上げても、私たちには文句を言う権利自体がなくなります。現にいま沖縄で起こっていることですよね。

近代憲法とは、国民主権を前提として、国家権力(かつては王権)の暴走を防ぐために、国家権力にはめる「たが」です。「王といえども法に従わねばならない」(「法の支配」と言います)というリミッターが近代憲法なのです。こうした憲法を制定したうえで、これに基づいた政治を進める考えを「立憲主義」と言います。

ですから、リミッターを外して好き勝手にやりたいという自民党は、「立憲主義を理解していない」「戦前回帰を狙っているのではないか」と言われるのです。