第16回口頭弁論の報告
2023年1月24日、専門家証人の尋問が行われました。出廷されたのは国際人権法の権威、申惠丰先生です。申先生は、意見書も出してくださっていましたが、それだけでなく、法廷で大学での講義のような解説をしてくださいました。
自由権規約(正式には「国際人権規約B」)は国際条約ですので、それに批准している日本も拘束されています。したがってそれと日本の法律は整合的に解釈されなければなりません。特に人権規約は直接適用されるとされます。
また、自由権規約委員会の「一般的意見」は、国際司法裁判所(ICJ)も依拠する権威ある条約解釈で、その34号が本件に関するものです。民主的社会では、特に公的・政治的問題については制限なく自由な表現が流通し、公的な議論が行われることの重要性を強調しています。
さらに、自由権規約と内容共通するヨーロッパ人権条約に基づいた、ヨーロッパ人権裁判所による判例も、自由権規約の解釈の補足的手段になります。
公人の名誉権との関係で、表現の自由に制限が課される場合もありますが、一般的意見34により、課されうる制限は最小限でなければなりません。公的・政治的領域にいる人物に関する公的な議論は規約上特に保護されることになります。
スラップ訴訟であるかどうかの基準は、公的関心事項に関する言論や市民運動の抑圧が訴訟の目的となっているかどうか、そして当事者間の非対称性にあります。本件のように、国会議員かつ国務大臣という強大な政治的権力をもつ人物が、何の政治的権力も持たない一大学教員のツイートに対し、注意喚起や意見表明の手段を取ることもなく突然に訴訟を提起して訴訟手続の負担を強いることは、批判的な言論に対する「見せしめ」を狙った威圧的行為(いわゆるスラップ訴訟)とみなされても仕方がない行為であり、裁判制度の趣旨に適うものとは到底言えないものです。
特に国会議員という公選によって選出される人物は、社会の中で広く議論・批判の対象とされその社会的評価が形成されるのが当然であり、そのような立場の人物は最大限にそうした議論・批判を甘受しなければなりません。