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フランスに学ぶ少子化対策

ネットでニュースを見ていて,「おっ」と思わせる記事を見つけた。

「少子化対策:内閣府、仏独の育児支援制度などを調査」(毎日)

おお,やるではないか,内閣府。まあとりあえず調査だけではあろうが。

このネタは書こうと思っていただけに,ちょっとくやしい。まあでも,この件についてフランスに学ぶべきことはまちがいなく多いはずだ。だからこれは喜ばしいニュースである。

まずはリンク切れに備えて全文を引用しておこう。

少子化対策:
内閣府、仏独の育児支援制度などを調査

 内閣府は、今後の少子化対策の参考にするため、フランスとドイツの育児支援制度や家庭生活状況を調査した。フランスでは、家族手当、保育サービス、出産後の就労など多岐にわたって、働く夫婦を支援する制度が充実しており、欧州の中でも高い出生率につながっているという。他方、出生率が低いドイツでは、手厚い家族手当はあるものの、保育サービスが不足しており、母親がフルタイムで復職しづらい背景となっていた。

 内閣府経済社会総合研究所は「現金給付だけでなく、保育サービス、母親の就労支援などの対策を一貫して行うことが重要」とし、フランスの事例を、育児支援事業の改善に役立てたい意向だ。

 フランスの出生率(03年)は1.89で、約20年前の85年の1.83からほぼ横ばいで推移。第二次世界大戦前に導入された育児支援制度が定着し、出生率の落ち込みを防いでいる。家族手当は、子供が20歳になるまで支給され、子供2人で月約1万5000円、3人で約3万5000円と、数が増えるにつれ、手厚い支給額になる。さらに所得に応じ、出産手当、新学期手当などさまざまな手当が設けられている。

 金銭面での支援に加え、地域や職場に大小さまざまな保育施設があるほか、「保育ママ」というベビーシッターを家庭で雇う制度も普及し、育児と仕事を両立しやすい環境が整っているという。内閣府が同国で600組の夫婦に行ったアンケートでも、育児休業を終えて復職した母親の約6割がフルタイム(終日)の勤務を選んでいた。

 一方、出生率が1.34(同)と約20年前の1.4からじりじりと下がっているドイツでは、家族手当の支給額はフランスより多いが、保育サービスが不足。母親はフルタイムで復職しにくく、仕事と子育ての二者択一を迫られる傾向が強いという。【小川直樹】
毎日新聞 2005年5月4日 18時51分

だったらドイツについては調査もいらんみたいだけどね……。

私個人としては,「1.89」という数字は知ってはいたが,いまだに信じられないほど低い数字にすら思える。というのも,現実にこちらのご家庭を見ていると,子どもを4~5人もっている家庭はざらだからだ。「産み損」日本であたりまえのように暮らしていると,これはちょっと信じられないだろう。まるで「産めよ殖やせよ」の戦時中のようである。数字が1.89になるのは,結婚しない人や,同性愛の人の自由の拡大が逆向きに利いているのだろうと思う(根拠なし)。もしそうだとすると,それはそれですごいことである。

こちらにきた当初は,何でみんなこんなに子だくさんなのだろうと思っていた。カトリックだから堕胎しにくいからか。あるいは,そもそも○○の回数が多いからか(すいません。しかしそういう統計もしっかりあるのです)。それもあるだろうが,どうやら最大の原因はそんなお下品な理由にあるのではなかった。明らかにフランス国家の福祉政策が功を奏しているのである。

在仏日本人会の刊行物によれば,諸手当(Allocations)というのは10種類以上あるが,そのうち日本の児童手当に対応するのは「乳幼児手当 Allocation pour jeune enfant」だろうか。妊娠4ヶ月目から3歳まで支給され,その月額は165.22ユーロ(€1=¥140として,23,130.8円)である。収入制限は,前年度所得の課税対象額が17,948ユーロ(2,512,720円)というライン。これ以上だと支給されない。けっこうキツい家庭向けではある。でも月額2万3千円とはなかなかすごいことである。

しかし驚くべきは「家族手当 Allocation familiale」であろう。日本では勤務先から「扶養手当」がつくが,あんな感じのものを国が支給している。
子どもは2人以上でなければならないが,これには収入制限がない。その支給額は,2005年1月支給分からについては以下のように定められている。

子どもの人数 手取り月額 円に換算(€1=¥140)
2人 €115.07 ¥16,109.8
3人 €262.49 ¥36,748.6
4人 €409.91 ¥57,387.4

以下同様に,1人増えるごとに147.42ユーロ(20,638.8円)の追加(要するに子どもがn人なら,月額は{115.07+147.42×(n-2)}ユーロになる。わかりにくいですか。じゃあいいです……)。

しかも,子どもが成長していくにしたがって支給額も増えるのだ。どれくらい増えるかと言うと,

子どもの年齢 手取り月額 円に換算(€1=¥140)
11~16歳 €32.36 ¥4,530.4
16歳以上 €57.54 ¥8,055.6

増えるのである。

フランスだったら産めると思った▼祐天寺りえさん著の『フランスだったら産めると思った』(原書房,2002年)は,データ以上に主婦の「一人称の視点」から事情を伝えてくれる。それによれば,フランスでは「痒いところに手が届く」福祉がすでに現実のものとなっているという。その実例をこの本から紹介しよう。

(ただし※のついている既述の点は,数字が改定になっていたり為替レートが変動しているため,修正してある。それ以外の数字も変動していると思われるが資料が手元にないため未修正である。)

  1. 妊娠&出産手当(妊娠5ヶ月~出産)……すべての費用について保険適用
  2. 乳幼児手当(妊娠5ヶ月~生後3歳)……子ども1人あたり約23,000円/月※
  3. 家族手当……子ども2人で約16,000円/月,1人増えるごとに約20,600円/月追加※
  4. 家族手当補足……子ども3人以上の1人ごとに約15,000円/月
  5. 新学期手当(小学生~)……約29,000円/年
  6. 産後の母親の運動療法……保険全額支給
  7. 双子もしくは子ども3人以上など……家事代行格安派遣(1~2度/週)
  8. 片親手当……子ども1人で約76,000円,1人増えるごとに約19,000円/月
  9. 不妊治療……人工生殖にも保険適用(4回まで)

驚いただろうか。子どもが3~4人くらいいれば,「小学校教諭の月給程度」の手当が出るという(伝聞)。ベビーシッター nourrice (記事中の「育児ママ」のこと?)をきっちり雇っても大丈夫。ということはその間ママもきっちり「社会進出」できて,ダブルインカムとなり,精神的にも経済的にも,かなり安泰な生活が見込める。労働市場的に見ても,ベビーシッターというもの自体の雇用が創出されるわけである。

ちなみに日本の「扶養手当」の場合,周知のとおり,配偶者が稼ぎすぎると扶養家族からはずれてしまう(だけでなくさまざまのマイナスがある)ので,ダブルインカムのうまみは全くもって減ってしまう。

▼ここまでは子どもが増えると収入が増える,という話だった。ではひるがえって,支出の面はどうか。こちらを考えても日本との差は歴然である。

子どもが増えるということは食い扶持が増えるということで,つまり食費は大きいだろうが,これについては日本とフランスで大差があるわけではなかろう。問題は「教育費」と「教育関係費」である。

まずフランスでは,学費がタダ同然である。幼稚園(これらこちらでは義務教育である)から大学まで,学校にかかる費用といえば,主に給食(cantine)やクラブ活動(atelier bleu)くらいであろう。「教育費」ではなく「教育関係費」がほとんど(なおフランスの文房具はアホほど高い。が,教科書はすべて貸与なので無料である)。

ちなみにフランスでは大学間格差が建前上ないことになっており,したがってみな居住地の大学に入ることになっている。この事実が実は2つの出費に利いてくる。まず,受験の過当競争がないため「(進学)塾」が存在しないこと。学校外で勉強する必要のある子は家庭教師をつけたりするようだ。が,特に困っている子以外はそういうのも要らないようである。むしろ芸術関係やスポーツなど,別の習い事をしている子が多いようだ。もう一つは,みんな地元の大学に入るため,下宿をする必要がないということだ。塾に行かない,下宿をしないという2つの意味において,上の制度が親の出費を低く押さえることに利いているのである。

もっとも,フランス側の「教育関係費」がいくらになるのかという資料は未発見である。というかどう考えてもそんなにはかからないし(文房具とか,小遣いとかだし),はっきり線の引きにくいカテゴリーだからまとめにくいだろうので,資料そのものが存在しないような気がする。ご存じの方があればぜひご教示いただきたい。

▼これに対し,日本では月々の「教育費」「教育関係費」がどれくらいかかるのか調べてみると,保険屋さんの資料があったのでサクッと拝借させていただくと,国立大学4年間自宅で576.5万円,下宿生で907.7万円なり。これプラス小学校から高校まで全部公立で通したとして,国立大学を下宿で過ごしたとすると,ざっと1,368万円ちょいかかることになる。子ども4人なんかだとその4倍かかるということだ。

だから,かなり安上がりな子どもでも2~3人産み控えると,食費も考慮に入れれば,浮いたお金で小さな家一軒建つという感じかな? 逆に私学に行く子はかなり親不孝であるということになる。文系ですら国公立と200万違っている。しかも私学の医学部に行く子などは,とみにそうである。もっとも私大医学部に行く子の親で普通のサラリーマンという人はめったにいないと思うが。これを日本では,国ではなく,企業の福利厚生でまかなっているのである。

さて今般問題の大学授業料という点で見れば,日本では大学に入ると,学生1人につき,いちばん安いはずの国立の場合でも今年から535,800円/年になるので,4年間で2,143,200円の支出はまず確定である。しかも下宿などすることになれば,さらに支出は増える。

仮に大学の学費が無料ということになれば,907万円というところからこの214万円が引かれることになる。つまり693万円。ちょっとましにはなる。これが仮に地元の国立に行けば,576万円引く214万円で,362万円まで落とせる。ここまできてはじめて状況として(金額としてではなく――たぶん金額もそれくらいかかるのだろうということで)フランスと互角になる。現在の907万円では,その2倍から3倍の水準だということになる。

▼このような事情なので,フランスでは誰が考えても子どもは産んだ方がトクということになり,日本では誰が考えても産まない方がトクということになる。

こう言うと語弊があるかもしれないが,あえて言おう。今日の日本で子だくさん志向な人は,並外れて子煩悩であるか,もしくは,「先のことをあまり考えない(考えなくても大丈夫な)人」だということだ。少なくともそちらにバイアスはかかる。かくいう私自身も,考えていたらいつまでたっても子どもは作れない,と,2人まではあえて目をつぶったのである。言うまでもなく,我が家の財力では3人目は(生活水準を落とさないかぎり)不可能である。

ということは,今後日本では,先のことをあまり考えない人の子孫のみが生き残り,理性的で慎重な人の子孫は死に絶えてしまうということが当然予想される。そういうことを「適者生存」と呼ぶべきかどうか筆者は知らない。が,そういうシナリオは何となくよろしくないと思われる。

子どもが好きだから,かわいいからというだけで,何百万何千万のカネを失ったり,世が世なら建っていたかも知れぬマイホームの夢を逃すのは,われわれ庶民にはちょっとキビしすぎる。いやそれはもちろん,子どもを産み育てることの社会的意義は量り知れないとしても,日々の糧という部分に関してはどうにもこうにも。政治家さんやお役人さんにはそういう実感はないのであろうか。どうもわからん。

▼実は分量の多い今回の記事を準備し始めたのは,公明党の少子化対策案(3月25日)が発端だった。以下「児童手当『小6までに拡充』,所得制限も撤廃・公明案」なる記事から抜粋。

 公明党が近くまとめる少子化対策案が24日、明らかになった。児童手当の支給対象を現在の小学3年生から6年生にまで広げ、手当を受け取る世帯の所得制限も撤廃する。予算総額は約1兆1000億円を見込んでおり、所得税の特定扶養控除の廃止で賄う構想だ。

現在我が家でも児童手当をいただいているが,月5,000円である(大分市の場合)。まあ誰もタダで5,000円くれたりしないからありがたくいただいてはいるが,もう少し何とかならんかという額ではある。少なくとも,これのおかげで「もう一人つくっちゃお(はぁと)」と思うカップルが何組あるかと言えば,まーまちがいなくゼロであろう。

上の公明党の案も,「焼け石に水」という言葉がぴったりであるとしか言いようがない。だからといってフランス流を指向しても,ではそれほどの莫大な財源をどこからひねり出すか,頭の痛いところである。まずは内閣府の報告書に着目したい。

追記 le 08 août 2005

パリのママンの教え」さんの,「フランスは人口増加中」という記事を見逃していた。「1人子供を生むと,手当てのほかに,年金受給に必要な労働期間が2年短縮され」るとのこと。3人で6年。いやーこれは知らなかった。どおりで皆さん子だくさんなわけである。

追記 le 01 novembre 2005

デュッセル通信」さんの,「フランスの少子化対策。産まなきゃ損~」というエントリーでは,「4人目が生まれると有給休暇が11日追加される」「女性は,子ども1人につき3年間,職場復帰が保証される」ことが紹介されている(※ここのコメント欄にも同じ指摘があります)。

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